
がまの油誕生秘話
むかし筑波山のふもとに、兵助といううだつの上がらないお百姓がいました。 ある日、兵助は仕事もせずに筑波山の"がま石"を眺めていました。そのうちふと"がまの油"を売ろうと思いつきました。"がまの油"とは筑波山にある寺の上人が作った、けがによく効くと評判の塗り薬でした。 しかし、ただ売り歩いたのではたかが知れていると考えた兵助は、薬をしょい、筑波山で捕まえた"がま"を箱に入れ、"天下の妙薬・筑波山のがまの油"と書いた旗を持ち、縁日やお祭りの人ごみへ出かけていきました。紋付、袴にたすきがけ、頭にはハチマキ、腰には刀という風変わりな格好をして行ったので、なんだろうと人がたくさん集まってきました。そこで兵助は、「さてさて、おたちあい。ここにとりいだしたるは陣中膏がまの油。がまはがまでも霊峰筑波の神泉に生まれ育った"四六のがま"。前足の指が4本、後ろ足の指が6本、あわせて"四六のがま"。」と、口上を述べ始めると、箱に入ったがまを集まった人たちに見せました。「筑波山中奥深くに住むこのがまを、4面鏡の箱に入れますれば、がまは鏡に映ったおのれの姿を見てタラリタラリと脂汗を流す。その脂を煮詰めたのがこの陣中膏がまの油。」そして「がまの油」を取り出して見せました。「ひび、あかぎれ、しもやけ、キズの妙薬。歯の痛みもぴたりと止まる。」
すると今度は腰にさした刀を抜くと、人々は思わず息を飲みました。兵助はがまの油を刃に塗りつけ、それをきれいに拭き取ると、白い紙を取り出しました。「1枚が2枚、2枚が4枚、4枚が8枚、8枚が16枚。」と、言いながら紙を重ねては細かく切ってゆき128枚にまで切ったところで「ほらこのとおり、紙の吹雪のできあがり。天下の名刀に早変わり。」と、紙を一面に吹き散らしました。「さてさて、おたちあい。何でもござれのこの"がまの油"、遠慮は無用だ、どんどん買っていきやれぃ!」口上が終わると、見ていた人たちは手に手に銭を差し出し3つ4つと買って行きました。この兵助の口上と、おかしな格好が受けて筑波山の"がまの油"は遠くにまで広まっていきました。実際、"四六のがま"と言っても、"がま"は筑波山に限らずみんな"四六のがま"ですし、がまの流した脂汗から作った油であるわけはないのですが、不思議と引き込まれてしまう兵助の口上は、たいしたものですね。
参考資料:ふるさとの民話<全国県別民話集> 日本児童文学者協会編 偕成社 他
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